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抗重力伸展機構の破綻による不良姿勢のクリニカルパターン

姿勢の分類は様々である。ケンダルはflat back、kyphosis、lordosis、sway backに分類し、建内は9パターンに分類している。ここでは、全ての姿勢パターンに関する考察は避け、臨床上頻繁に遭遇するsway backに焦点をあてる。姿勢の特徴のみではなく、その姿勢の成り立ちについてのクリニカルパターンを紹介する。

 

  1. 座位では、立位と比較して骨盤が後傾位となりやすい。デスクワーカーは腰椎前彎が減少し、脊柱後彎化、骨性の支持が優位となり、抗重力伸展筋群(腸腰筋、多裂筋、腹横筋、脊柱起立筋など)の機能不全を引き起こす。徐々に脊柱伸展の可動性低下を招き、脊柱後彎のアライメントが定着する。結果、上半身重心は後方重心となる。後方重心の制御のため、腸腰筋の持続的活動が必要となり、次第に伸張性を失っていく。
  2. 脊柱後彎のアライメントは、立位にも影響する。上半身重心のため、姿勢保持の代償として下半身重心、すなわち骨盤、大腿を前方に偏位させる。つまりC-postureを呈する。これは大殿筋の不活動を招き、筋力低下が生じる。同時に、足関節背屈位となり、下腿前傾制御のため、足関節底屈筋群の過活動を招く。
  3. 腸腰筋・大殿筋などの股関節周囲筋の筋力低下は、立位において股関節戦略を廃用させ、代償的に足関節戦略を優位とする。結果、下腿筋群の過活動を招き、股関節周囲筋は更に不活動となる。特に抗重力伸展運動時には、股関節戦略を使用することができず、代償的に膝関節戦略を用いることとなる。

 

以上がsway back姿勢の1つのクリニカルパターンである。この影響は各関節に様々な影響を与える。以下に概略を述べる。

~胸郭~

・脊柱後彎、しいては胸椎後彎の影響を受け、胸郭は屈曲位となる。肋骨間の接近のため、伸展・側屈・回旋の可動性は強く制限される。結果、胸郭の拡張不良をきたし、これは横隔膜の収縮を阻害する。呼吸は上部胸式呼吸優位となり、呼吸補助筋の過活動を引き起こす。胸椎後彎は脊柱起立筋の過活動を引き起こす。

~肩甲骨~

・脊柱後彎、しいては胸椎後彎の影響を受け、肩甲骨は外転位となる。これは上半身の後方重心を代償するための、小胸筋による上肢帯の前方への重心移動の結果と思われる。また肩甲骨は胸郭の形状に沿って運動するため、下方回旋位を呈し、僧帽筋は伸張位となり、筋力低下が生じる。肩甲骨挙上筋は肩甲挙筋のみとなり、同筋の負担が増加する。前方リーチには小胸筋が優位に働き、前鋸筋の不活動を招く。肩甲骨固定のため、菱形筋群の代償を招く。

~肩関節~

・前鋸筋、僧帽筋の機能不全により、肩関節屈曲時の肩甲骨上方回旋を強く制限する。結果、肩甲上腕関節優位の運動パターンとなる。腱板機能低下は上腕二頭筋、三角筋、大胸筋などの過活動を招き、筋性疼痛や滑走不良を引き起こす。肩甲骨下方回旋・前傾の影響を受け、関節窩は下方を向く。上肢の重量を支えるため、棘上筋・棘下筋の負担が増加する。特に棘下筋の過剰収縮は、相反抑制により肩甲下筋の抑制を引き起こし、大胸筋の短縮とともに骨頭の前方化を引き起こす。結果、肩甲骨前傾、骨頭前方化、上腕骨外旋のパターンを呈する。

~頚椎~

・胸椎後彎の影響を受け、後方重心を代償するため頭部は前方位となる。結果、頚椎前彎の減少を招く。同時に前方注視のため、上位頚椎は後頭下筋群の活動により過伸展位を呈する。頭部前方位のため、脊柱後方に位置する筋群(僧帽筋上部、頭板状筋、頚板状筋、脊柱起立筋)の過活動が生じる。

~腰椎~

・胸椎後彎の影響を受け、上位腰椎は前彎減少する。同時に骨盤前方偏位のため、下位腰椎の過伸展が生じる。下位腰椎は骨性の支持が優位となるため、多裂筋の廃用を招く。

~骨盤帯~

・下位腰椎過伸展の影響を受け、仙骨の前傾を引き起こす。重心位置は股関節の後方を通過するため、股関節伸展位(腸骨後傾)を呈し、仙腸関節のニューテーションは過大となる。

~股関節~

・股関節は伸展位を呈すると同時に、骨盤の前方偏位のため、臼蓋後縁は大腿骨頭の前方偏位を促し、大腿骨は外旋位を呈す。

~膝関節~

・大腿骨外旋の影響をうけ、下腿の外旋を引き起こす。相対的に膝関節は内旋位となり、膝関節の終末伸展に逆行する。結果、膝関節は軽度屈曲位となりやすい。軽度屈曲位では靭帯性の安定化機構を利用できないため、側方への不安定性が増加する。また頚体角の存在により大腿骨外旋は大腿骨遠位端を外側へ偏位させる。これは膝関節内反を引き起こす。重心位置は膝関節直上~やや後方を通過するため、大腿直筋の活動を誘発する。

~足関節・足部~

・下腿外旋の影響を受け、距骨の外旋により距骨下関節回外を招く。骨盤の前方偏位も含め、足関節は背屈位を呈する。

 

以上はあくまでもクリニカルパターンのほんの一例である。この他に様々な影響を受けるため、この姿勢パターンに一致しないことは多々ある。むしろ、パターンに一致しないところに、評価のポイントがある。そのため、様々な臨床症状を把握していく上で、このようなパターン化は必須である。注意すべき点は、上記の例に限らず、パターンをそのまま患者に当てはめてはいけないということである。