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目的に合わせて筋の質を変える

 

 

骨格筋の性質には形態特性、硬さ(粘性・弾性)、代謝特性、収縮特性などがある。

骨格筋を構成する筋線維には代謝特性や収縮特性により大きく遅筋線維(typeⅠ)と速筋線維(typeⅡA、ⅡB、ⅡD/X)に分類されている。typeⅠはミトコンドリアを豊富に富み、酸化系酵素の活性が高く、収縮速度は遅いが疲労しにくい。ミオグロビンを多く含み、赤筋線維とも呼ばれる。typeⅡB、ⅡD/Xは解糖系酵素の活性が高く収縮速度は速いが疲労しやすい。無酸素状態での代謝に依存しており、白筋線維とも呼ばれる。typeⅡAはどちらの性質も持った筋線維である。なおtypeⅡBはマウスやラットなどの小動物にのみ見られ、ヒトの骨格筋では主にtypeⅠ、ⅡA、ⅡD/Xがあるとされている。

筋線維タイプは生後、加齢や運動、環境、疾病などの様々な要因により変化すると言われている。

【遅筋化 ⅡB→ⅡD/X→ⅡA→Ⅰ】

・加齢

・サルコペニア、ALS、糖質コルチコイド、カロリー制限、飢餓、Ⅰ型糖尿病、敗血症、癌疾患、癌性・筋緊張性ミオパチー、進行性筋ジストロフィー(Duchenne type)

・遅筋を支配する運動神経の発火に類似した緊張性の低頻度の電気刺激

・持久性運動

 

【速筋化 Ⅰ→ⅡA→ⅡD/X→ⅡB】

・廃用性筋萎縮、運動神経・脊髄損傷、Ⅱ型糖尿病、カヘキシア、COPD、クローン病、無重力状態(宇宙飛行)

・速筋を支配する運動神経の発火に類似した相動的な高頻度の電気刺激

・(筋力増強運動)

※加齢や疾患などでは遅筋または速筋線維の筋萎縮や筋線維タイプ変化により相対的に他の筋線維の割合が増加する。

 

例えばⅡ型糖尿病ではtypeⅡB(typeⅡD/X)の割合が高くなり、typeⅠやtypeⅡAの割合が低くなってしまう。骨格筋は生体内でもエネルギー消費の多い組織であるり、その中でも酸化的酵素活性の高いtypeⅠやtypeⅡAでは積極的に糖代謝が行われる為、有酸素運動や筋持久性運動などで骨格筋を遅筋化させることが有効と考えられている。また、姿勢維持や動作の中でも継続した筋活動が求められる筋では持久性に富んだ筋線維が求められる。

 

逆に動作では瞬間的に筋力を発揮しなければならない場面が少なくないため、加齢やサルコペニアその他の速筋が萎縮した状態では動作能力低下が起こりやすい。その為、速筋化を図る運動が必要となってくる。

運動による速筋化はまだ研究が不十分ではあるが、除神経処理した筋線維の直接電気刺激によって遅筋化だけでなく速筋化の変化も報告されているため、運動による遅筋から速筋への変化も期待されている。

 

上記ではいくつか例を挙げたが、理学療法士・作業療法士は患者の動作能力低下や加齢や栄養状態、疾患などで筋がどのような状態かを把握し、いわゆる筋力ではなく筋の瞬発性(収縮速度)や強さ、筋持久性など筋線維の収縮特性や代謝特性に合わせた負荷を設定することが大切であると考える。

 

余談ではあるが近年の研究で食品により運動と同じように筋の性質を変化させることができると言われており、魚油摂取では大豆油摂取と比べ速筋サブタイプ間の遅筋方向への変化に合わせ、脂肪代謝に関わる遺伝子発現が増加するという報告もある。パフォーマンス向上を目的としたスポーツの世界ではトレーニングと同様に栄養も重要な位置付けがされている。糖尿病やサルコペニアなど医学的リハビリテーションの中でも栄養の重要性が指摘されていることからも、運動だけでなく食品・栄養なども視野に入れることでさらに運動の効果が期待できるかもしれない。

【参考文献】

1)宮下充正:哺乳動物の骨格筋線維,Sportsmedicine 26(2),36-39,2014

2)宇都宮初夫(編):SJF関節ファシリテーション,第2版,丸善出版,2014

3)重本和宏:筋萎縮(サルコペニア)における代謝変換のメカニズムの役割,実験医学 32(9),1366-1371,2014

4)水野谷航:骨格筋線維タイプの食品栄養学的制御に関する研究,日本栄養・食糧学 69(1),3-9,2016

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菊池たくま

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