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運動器退行変性疾患のクリニカル・クエスチョン ~導入篇~

運動器の退行変性疾患は、日常生活での姿勢や、繰り返し行われる運動パターンが基盤で生じることは周知の事実である。別の言い方をすれば、運動器の生活習慣病といえるだろう。そこで退行変性について、近年の生活様式の傾向から考える。

床の生活から、椅子での生活にシフトした。職業はデスクワークが増え、移動手段も歩行や自転車から、自動車の普及により座位の機会が増えた。エレベーターやエスカレーターのない施設を見つけることは困難となった。

快適な生活の反面、これら傾向は、現代人は重力に逆らった運動(抗重力伸展運動)の機会を奪われているといえる。抗重力伸展機能に関して、進化論の書籍には以下のように述べられている。

「われわれの先祖のサルは、安全な木の上で生活し、森から森へ食料をもとめていった。しかしあるとき熱帯林が減少してしまった。そこで木を降りて、草原に降りざるを得なくなった。しかし、草原には猛獣たちが蔓延っているため、食料(果物など)を手に入れてもゆっくりと食事をすることはできない。食料を手に入れたら安全な場所に避難しなくてはならないため、手を食料の運搬のために使用し始めた(運搬説:二足歩行の起源)。また避難する安全な場所には高い岩場の洞窟を選んだ。岩場を登るための抗重力伸展が必要となった・・・」

このように、抗重力伸展機能こそ、最後に獲得した上等機能で、ヒトの進化の証といえる。しかし、その機能が失われかけている。

筆者は抗重力伸展機能の破綻が、運動器の退行変性疾患の基盤ではないかと考えている。最後に獲得した機能とういことは、最初に失う機能にもなりかねない。抗重力伸展機能の破綻が不良姿勢、不良運動パターンを招き、退行変性疾患の諸症状を引き起こすものと考える。

そこで今回、抗重力伸展機能の観点から、座位・立位の不良姿勢や、不良姿勢患者の動作の特徴についてまとめた。これは筆者の臨床推論(クリニカル・リーズニング)に基づいた臨床パターン(クリニカル・パターン)の集積の結果で、その一例を可能な限り学術的根拠と合わせて紹介しようと思う。また臨床場面で頻繁に遭遇する主訴を臨床的疑問(クリニカル・クエスチョン)とし、症状の解釈や、解決のための手段の一例を、病態把握を踏まえて提示しようと思う。

【腰痛のクリニカル・クエスチョンの例】

例1)なぜ、背臥位で痛いのか

例2)なぜ、歩きはじめだけ痛いのか

例3)なぜ、寝返りが痛いのか          etc...

 

本稿が座学(学生)と臨床(治療者)をつなぐ一助となれば幸いである。

参考・引用文献

1)齊藤昭彦『腰痛に対するモーターコントロールアプローチ』医学書院 2008年

2) 亀尾徹『スポーツ理学療法におけるクリニカルリーズニング』理学療法科学,2008

3)Catherine Doody『Clinical reasoning of expert and novice physiotherapists in an outpatient orthopaedic setting』May 2002 Volume 88, Issue 5, Pages 258–268

4)May S『Limited clinical reasoning skills used by novice physiotherapists when involved involved in the assessment and management of patients with shoulder problems: a qualitative study.』

5)Michelene T.H.Chi,『Categorization and representation of physics problems by experts and novice. 』Cognitive Science Volume 5, Issue 2, pages 121–152, April 1981