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クリニカルクエスチョン(補足の補足)~評価・治療のポイント~

【評価・治療のポイント】

 筆者の尊敬するセラピストの言葉にこのようなものがある。

  増悪因子だけを与え続ければ、症状は悪化する。

  寛解因子だけを与え続ければ、症状はなくなる。

 至極単純なことであるが、非常に明快な言葉である。ここに評価のポイントと、治療のポイントが隠されている。

 

【評価のポイント】

症状の原因組織の特定には症状の増悪、寛解因子の聴取が必要不可欠である。筆者は、多数の増悪因子の共通項は、原因組織と直結する要素であると考える。つまり増悪因子の積み重ねは局所の評価となる。寛解因子はその確かめ算に用いられる。

問診から得られる情報、特に主訴はもっとも明確な増悪因子である。また主訴からは姿勢・運動・動作と症状の関係がわかる。症状は組織のover useと関連することが多いが、over useはその姿勢・運動・動作の代償部位に存在することがほとんどである。

 つまり、退行性変性疾患における理学療法士の仕事は『代償をみつけること』といっても過言ではない。

  代償は患者により様々であり、一人として同じ代償を呈する患者はいない。エビデンスに依存せず、個別性のある治療が重要視される所以である。

 つまり、評価のポイントは問診による増悪因子の収集・蓄積であり、特に主訴となる姿勢や動作の代償をみつけることである。そのためには、姿勢や動作の運動学的特徴を知ること(基礎知識)と、多種多様な症状や代償に個別性をもって対応しなければならない。個別性をもって対応することとは、患者を主体として治療展開することである。

ここで、筆者の尊敬するセラピストの言葉を紹介する

    痛み(症状)は患者が一番知っている 患者から引き出し、患者から学べ

患者という様々な現象(人体の神秘)に、謙虚に対応する治療者の姿勢が必要となる。

    ヨクミキキシワカリ ソシテワスレズ

有名な宮沢賢治の『雨ニモマケズ』の詩の一節である。筆者の臨床における座右の銘である。

 

【治療のポイント】

治療のポイントとは、寛解因子を与えること、そのものである。しかし、その寛解因子の解釈方法に注意しなければならない。例えば、「寝ていれば痛くない」という患者に対し、極端な安静を強いてしまうと正常な組織に対し廃用を招き、2次的な機能障害を作りかねない。そのため、「寝ていれば痛くない」という現象を「ある組織が抗重力活動を免れると痛くない」と解釈しなければならない。つまり治療方法は「ある組織の抗重力活動を軽減させること」となる。

寛解因子を与えることの他に重要なことは、代償を理解することである。代償の出現する意味(原因)がわかれば、出現させない方法もおのずとみえてくる。そのためには、代償の原因を推論していかなければならないが、その際に助けとなるのがクリニカルパターンである。

三度の確認となるが、本稿では、クリニカルクエスチョン(主訴)に対するクリニカルパターンを紹介していくことを目的としている。

 

※クリニカルパターンとは

効率的な意思伝達と思考を促すために知識をかたまりとし、パターンとして認識することが重要となる。頻繁に遭遇するパターンはプロトタイプとなり、解釈する際の鍵として知識へのアクセスを容易にしてくれる。これをクリニカルパターンと呼ぶ1)

クリニカルパターンはあくまで機能障害の傾向を示すものであり、疾患および病理そのものを説明する絶対的なものではない1)。そのため、筆者がクリニカルパターンを紹介することに果たして価値があるのかと思う方も多いだろう。

しかし、先行文献からは「学生の時は命題的知識に基づいた医学的知識を基にパターンを構成せざるをえない1)」とあり、「初心者はデータの臨床的意味の理解が不足していた。また臨床推論に用いたパターン認識は最小限であった2)」との報告もあり、知識不足、また知識の臨床的な応用力不足も否めないと思われる。また、「熟練者と初心者の身体諸問題に対する説明は、その治療者の知識に依存する3)」とあり、不足した知識、あるいは偏った知識は健全なCRを展開する上で弊害となる恐れがある。そのため、たとえ命題的知識に基づいたパターンであっても、ある程度知識を体系化したパターン認識を共有する必要があると思われる。

 

参考文献

1)亀尾徹『スポーツ理学療法におけるクリニカルリーズニング』理学療法科学,2008

2)May S『Limited clinical reasoning skills used by novice physiotherapists when involved involved in the assessment and management of patients with shoulder problems: a qualitative study.』

3)Michelene T.H.Chi,『Categorization and representation of physics problems by experts and novice. 』Cognitive Science Volume 5, Issue 2, pages 121–152, April 1981