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クリニカル・クエスチョン(補足)~理学療法士固有の職能~


  • 理学療法士は名称独占であり業務独占ではない。故に、理学療法士固有の職能については意見が散乱している。その中で、理学療法士の専門性は、評価・推論能力にあるという意見は多い。筆者もその一人である。特に日本PT協会も機能診断学の確立が必須であり、そのための臨床推論(クリニカルリーズニング)の整備が急務との見解を示している。幅広い知識や根拠・理論を基にした、機能評価、所見の因果関係の究明能力こそ、理学療法士固有の職能と考える。

毎週末、いたるところで開催されている講習会の多くは、所見の因果関係を考慮せずに、治療の理論体系の説明、異常所見の見つけ方と、その治療方法の紹介に講義時間の多くを割いているように見受けられる(あくまでも筆者の経験上)。それはおそらく、主催者側からしたら、限られた講義時間で受講者の満足度を得るためには、即時効果という事実がもっとも効果的である。そのため、筆者の感じている最近の講習会の傾向は当然のことなのかもしれない。

ただ、筆者はそのような傾向に違和感を感じていた。筋緊張が高ければおとす、弱ければ鍛える、硬ければ動かす、後傾していたら前傾させるといったHow to治療に、果たして理学療法士の専門性があるのだろうかと。腕の良い整体師と何が違うのだろうか。時にHow to治療は、即時効果を出せないばかりか、症状を悪化させることになりかねない。それは所見(痛み、硬さ、弱さ)の意味・因果関係を考慮せず、治療の適応を誤った結果である。

理学療法士は素人と違い、解剖学・運動学・生理学をはじめ、基礎医学から病態学まで幅広く学んでいる。これこそが職能であると考える。それらを基に所見を解釈し、他の所見との因果関係を考察することができる。しかしその知識の幅広さ故、卒前教育の4年間では知識の臨床応用方法までは十分に学べないのが現実ではないだろうか。実際に筆者も得た知識が生きた知識に変わるまで、卒後多くの時間を必要とした。

それ故、卒後教育の充実が望まれるが、では実際にそのような講習会を探してみると、非常に数少ない。なぜなら、それらの講義には膨大な時間が必要であり、座学が中心であり、受講者の満足度を得ることが難しくなるからではないかと思われる。

そこで必要とされるのは、膨大な情報の詰まったテキストである。良書には他覚所見の解釈方法が、解剖学的・運動額的・生理学的根拠を基に詳細に記載されている。しかし主観的評価(問診)に関する所見の解釈方法が記載されているテキストは少なく、あっても情報量が少なく、独力で学ぶには多くのテキストを散見する必要がある。

そこで今回、臨床現場で必ず存在する「主訴」を、クリニカル・クエスチョンとして、その解釈方法を述べていく。それは、解剖学・運動学・生理学の知識なくしては得られない、原因組織の特定方法(局所の評価)や、所見の因果関係をクリニカルパターンとして紹介することを目的としている。

 

参考文献

・玉利光太郎『理学療法診断学構築の意義』吉備国際大学研究紀要,第23号,7-17,2013年

・天野徹哉『理学療法診断学に基づく臨床推論の可能性』理学療法学,第41巻,第8号,579-583項,2014年

・内山靖『臨床推論における理学療法評価/診断学の標準化に向けて』理学療法学35(Supplement_3), p83, 2008年

・斎藤明彦訳『セラピストのための鑑別診断』エンタプライズ,2003年

・石井美和子監訳『骨盤帯 原著第4版』医歯薬出版株式会社,p249,2013年