発話を流暢・非流暢に分類する際に、簡易的に行える方法の一つとしてBensonの流暢性分類が挙げられる1)。
以下に1分間の日常会話例を提示し発話分析のポイントを解説したい。
ST:趣味はありますか?
Pt:べつに…ぶ…ねえもんな ST:運動が好きなんですよね? Pt:あ、あ、あるけど、だから、ねつっけないから、ね、ね、 ねつ(ジェスチャー)がねすき ST:釣りが好きなんですね? Pt:だけど(頷き)、これがまだできないから、だら、もうすこし、いいいっちゃえばねいってもねだいじょうぶだとはおもうんだけど、まだじぶんがね、こうじぶんがだめなんだよ、こんどはじぶんがやろうとおもうとねしょっからよ、く、もうかならず、と、とわれちゃう、とちゅうで ST:出かける際はどちらまで行かれますか? Pt:うーん・・・よるまでいくかな、よるうう(空書)。ちがう、よーはーあーりーじゃねんだよ、なんつったけ、にに・・・
課題:1分間の日常会話 ST:言語聴覚士 Pt:失語症者様 |
Bensonが提示している流暢性分類では、以下に示す8つの項目が重要といえる。
①はじめに挙げられるのが発話量である。上記の発話例は1分間で229文字となる。日本語の場合は1分間に150文字以下が非流暢発話の目安であり、450文字以上が正常と定められているため、発話量のみで考えると非流暢性発話の特徴に類似していると判断できる。しかし、②プロソディ面に着目すると抑揚がありリズム・プロソディの異常は認められない。③構音においても、発声発語器官に麻痺は無く母音/子音の歪みは認められない点や発語失行の要素も含まれていない。④句の長さも、3~6文字以下にて非流暢性発話の特徴とされているが、発話例をみると句の長さは3〜6文字以上の発話が多い。つまり、②・③・④の評価項目をみると正常範囲であり流暢性発話の特徴を現している。⑤努力性に関しては、発話の前に顔をしかめる、姿勢を変える、深呼吸をする、手振りを用いる場面がないかを確認することが大切である1)。発話例をみると、発話の際に顔をしかめたり姿勢を変える場面は認められないが、ジェスチャーや空書といった代償手段がみられるため非流暢性発話の要素が含まれている。⑥発話の切迫については、発話を止められない状態を流暢性の特徴とBensonは定めている1)。発話例をみると、文末で発話を止めることが難しく、話し続けてしまう場面が多いため発話の切迫が増大している。⑦内容は、語数と情報量を確認する必要があるが、発話量の229文字に対して伝達度が乏しい事から情報量は少ない。⑧錯語に関しては、新造語が頻発し無意味性錯語や音韻性錯語も確認された。よって、⑥・⑦・⑧の評価項目からは流暢性発話の特徴を現していると判断できる。
以上、Bensonの8項目で発話例の流暢分類を行うと、添付画像の通り22/24点となった。Bensonは、12点以下は前方病巣が疑われ非流暢性発話を示しやすいと定めている。また、20点以上では後方病巣が疑われ流暢性発話を示しやすく、13点から19点の間は中心溝を挟んで流暢性にばらつきがあると定めている1)。つまり、発話量の少なさや発話時の努力性が認められるが、8つの評点項目で考えると流暢性発話と判断される。
おわりに、発話分析及び流暢性の分類は失語症のタイプ分類を行ううえで非常に大切な評価項目といえる。タイプ分類は、訓練プログラムの立案や訓練結果にも大きく影響してくるため、流暢性の分類を行う際は言葉の滑らかさやよどみだけではなく上記の8つの点を評価していくことが必須といえるのではないだろうか。
参考・引用文献
1)鹿島晴雄ら:よくわかる失語症セラピーと認知リハビリテーション.永井書店,東京,2008.
2)苅安誠,大平芳則,柴本勇:脳損傷後の発話の流暢性の特徴‐後天性吃音・失語症・発達性吃音の比較‐.音声言語医学32:354-359.1991.